樋口一葉「たけくらべ」(千夜千冊…第1巻 リボンの恋)
「たけくらべ」を読み始めてまず気づくのは、今ではもう失われてしまった文語体のレトリックとリズムである。 言ってみれば、一葉がいかに和文に特有の縁語、掛詞などのレトリックを駆使し、リズミカルに行文しているかということを示している。こうした心地よい快楽的な文体は近代にはない。 このことは、24才という薄倖きわまりない短命が天才の呼び名を冠したわけではない。
そして、語り手は現代で言えばテレビ・レポーターが視聴者に語りかけるような語り口で吉原遊郭周辺の町の特異な雰囲気を簡潔にしかも具体的に伝えてくれる…と解説に書いてあるのも頷ける。
龍華寺の信如の<葛藤>と大黒屋の美登利の<邪険>は、十代の頃読んでから長い月日が経っても、未だに残っている。 <子供のままでいたかった>という空しい夢、、それをこの作品では誘引しているのかもしれない。 そして、「たけくらべ」の最後はあっけなく終わる。 これも一葉が仕組んだ余韻かもしれない。